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ISEKAI(伊勢流陰陽五行学)連載記事

CIAからの誘い

CIAからの誘い

ある日曜日、私はある照明器具のメーカーさんのお手伝いで、そのショールームで売り子をしていたのだ。ショールームにはシャンデリアやブラケット、ダウンライト、フロアー スタンド、街路灯、など様々な種類が陳列されていた。私は商社の汎用機械部に所属していたのだが、その関係で時々の日曜日にはメーカーさんの支援サービスをする慣習があり、主に外人さん相手だったのだが、その日が三回目であった。


午後2時半頃だったか、ショールームを1時間くらいゆっくり見回っていた一人の紳士が 話かけてきた。ソフト帽をかぶり、三つ揃いのスーツ姿で、笑顔であったが、眼光の鋭さ が私に強いインパクトを与えた。「君、すみませんが、あそこのフロアースタンドはどこ の国からのものですか?」「あ、あれはイタリア製です」「これは?」「フィンランド製 ですね」などと話しながら、あちこち案内をしていたのだ。帰り際、「君、どうもありが とう、いろいろ参考になったよ。今夜君と食事をしたいんだが、どうかね」「ええっ、い いんですか?」「じゃあ、赤坂の留園に7時に来てくれたまえ」「はい、ぜひ伺います」


若い私と中年のその人、前島さん。男二人だけでの食事。特に意味のある会話はなかった。 「どうも、ごちそうさまでした。また何かありましたら、ご連絡ください」といって終わった。そうして1週間程が過ぎた頃、その前島さんから電話があった。「六本木の風林と いう中華料理店に、6時半頃来てほしい。また食事しよう」「あ、ありがとうございます」 また前回と同じように、男二人でとりとめのない話をしながら、静々と食事を終えた。 「何なんだろう。特殊な商談をするのでもなく、注文をいただける訳でもなく、ただ御馳走をしてくれるだけだ。何か意味があるのだろうか」頭をかしげるしかなかったのだ。 またまた前島さんからの電話で、ホテルオークラの中華料理店に誘われた。今度こそ、私を誘った意味を聞いてみよう。


静々と食事をしていたのだが「君、仕事の方はどうだい、順調かね」「はい、まあ普通ですわ。あそうそう、来週の水曜日に韓国と台湾に行くことになりました。2-3日で帰ってき ますけどね。アメリカ軍施設への営業ですよ」「そうですか。じゃあ、韓国にいったら、この人に会いなさい。私の名刺の裏に君の紹介文を書くから、これを見せたらいいよ」 前島さんはペンと名刺を取り出して、目の前で紹介文を書いた。「この人はね、朴大統領の側近中の側近で、最も信用の厚い人なんだ。いまは通産大臣をしているが、いずれチョンソンホテルの総裁になる人だ。韓国ではね、今の日本のホテルオータニのような、国際的な一流ホテルをつくる計画を進めているんだ。何かいい仕事ができるかも知れないよ」


「ありがとうございます。前島さん、あなたは一体どういう人なんですか?」「いやまあ、 いいから、まずは行って来まえ」それ以上はきいたらいけないんだな、と感じた。


ソウルに着いてすぐタクシーで韓国の通産省に向かった。職員が忙しそうに仕事をして いた。「あのう、この人にお会いしたいのですが」受付の男性職員は「今、大臣は多忙 でお会いする時間が全くありません。恐縮ですが、またの日にお越しください」門前払い ではないか。「なあんだあ、前島さんって力ないじゃないの。はったりおっさんだったん だな、面白くない。私はホテルを探し、部屋のベッドでゴロッと、ふてくされていた。 2時間くらい経った頃、いきなり電話がなった。「こちらは通産省ですが、大臣がお会い になりたいそうです。至急お越しください」「え、は、はい、すぐにお伺いします。」急いでタクシーを呼んだ。


受け付けで、名前を名乗ると「どうぞ、こちらの部屋にお入りください」ドアーを開ける と、薄暗いが、とてつもなく広い部屋で、やたら大きな低いテーブルがど真ん中に据えられていた。その奥の中央に白髪頭でフチなしメガネをかけた、実に威厳と貫禄のある紳士 が座っていた。その威圧感というか威厳に私の体は震えはじめた。緊張感いっぱいだった。 「私の側に座ってください」そろそろと近寄って座った。その人、金氏は前島さんの名刺 を取り出し、「君、前島さんというのはどういう人相の人なのかね?」「はい、そうですね、目が鋭く、ソフト帽をかぶった、般若のような顔の人です。」「そうかね」顔の真正面に前島さんの名刺をもって、にらみつけていた。10分くらいしか時間がないが、今日は 何の用でここに来たのかね?」「前島さんから、チョンソンホテルのことをお聞きしまして、何かシャンデリアなどの注文をいただけないものか、と思いまして、まいりました。」 金氏は、側にあった大きな木魚を杖のようなものでたたいた。するとスーッと真ん中の扉 が開き、秘書が入ってきた。「チョンソンホテルのだれそれに至急電話をするように言え」 電話が来た。「おい君、メインロビーのシャンデリア6台の注文はもう終わってしまった のか?」「いえ、もう寸前です」「じゃあ、待て、私が決める」電話が終わった。「君に シャンデリア6台の注文をする。あとで正式注文書を発行するから、待っていなさい」 「ほ、ほんとにありがとうごじます。うれしいです。」「じゃあ、前島さんによろしくな」 「はい、では失礼します」


いや、すごいことになってしまった。「鶴の一声」じゃないか。それにしても前島さんと いう人は何者なんだろう、すごい人なんだな。そしてどうして私があのホテルでふて寝していたのをつきとめたんだろう、それも不思議だ。訳のわからないまま、台湾米軍に行ってから帰国した。会社では結構大騒ぎをしてくれていた。「すごいじゃないかあ」などと。 ほんと、あの金さんという人は威厳があったなあ。 私はメーカーさんから大きな信頼を得たのだ。帰国した翌日、前島さんから電話が来た。 実は私から連絡することはできなかったのだ。何度も会っているのに、名刺ももらって いなかった。場所は銀座の中華第一楼だった。「このたびはほんとにありがとうござ いました。お陰様で金大臣にもお会いでき、ホテルの注文までいただきました」「よか ったじゃないか」「私、前島さんのことを全然知りません、どうか教えてもらえますか」 「ああ、そうだったね。これが僕の名刺です」株式会社美華旅行社 代表取締役だった。 銀座一丁目だ。美華つまりメイフェア―旅行社の社長ということはアメリカのCIAの 出先機関だったのだ。この時期は、外車の販売代理店や旅行社の社長はほとんどがCIA の関係者だ。なるほど、だから韓国の大臣とも緊密なのだ。たった10分で大注文が決ま る、頼まれたことを100%守り、果たす世界の人たちなんだ。


「前島さん、どうして私を選んでくれたんですか?」「いやあ、君が純粋で、素直な 好青年だったからだよ」「ありがとう。でもそれだけですか?」「ん、そうだね、これ から君と組んで、いろいろ仕事をしてみてもいいかな、とは思ってるんだが」「ぜひ 私で良かったらやらせてください」「じゃあ、また連絡するから」といって別れた。


だが、その日以来、前島さんと二度と会うことはできなかった。声を聴くこともできなかった。会社に電話をするといつも「出張中で・・・・」という答えのみ。無念さがこみあげていた。


何か裏世界での急な任務が発令されたのかもしれない。私は裏世界、CIAのすごさの片鱗を垣間見てしまtった。なぜ大臣が私に会う気になったのか、そしてすぐ要求を聞いたのか、そして前島さんはなぜ私に接近して、ごちそうしてくれて、しかもすごいプレゼントまでしてくれたのか。私は何のお返しもしていない。御恩に報いたい、でもそれが出来 ない。やけに心が苦しかった。


私はひょっとするとCIAの出先機関の一員になっていたかもしれない。あるいはそのテストに不合格だったのかもしれない。CIAという裏世界の前島さんにとって、私が全く逆の表世界で素朴に生きているのを見て、なつかしく感じたのか。180度違う人間同士 は案外すごくお互いがひきつけられ、気に入ることもあるのかな。


不思議な体験をしたものだ。どうして私は人にはない変な出会いがあるのだろう。こんな ことがまだまだ、私の人生にはあるのだ。どうしてなんだろう。私は一体何者なのか。

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